【メディア企業徹底考察 #71】止まらない有名雑誌の休刊・廃刊、Web時代に雑誌が生き残る道はあるのか

有名雑誌の休刊や廃刊が止まりません。

太陽図書グループの「MEN’S KNUCKLE(メンズナックル)」が2022年7月25日発売の9月号で休刊を決定。 「MEN’S KNUCKLE(メンズナックル)」 は「Men’s egg(メンズエッグ)」の増刊号として創刊された20代前半の男性向けファッション雑誌。「ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」などといった独創的なキャッチコピーで人気を博しました。

「Men’s egg(メンズエッグ)」 は2013年に休刊しています。

株式会社竹書房の「まんがライフ」も、2022年7月27日発売の9月号で休刊を迎えました。「まんがライフ」は竹書房の4コマ漫画系雑誌の旗艦誌に成長し、植田まさし「フリテンくん」、いがらしみきお「ぼのぼの」、堀田かつひこ「オバタリアン」などのヒット作を生み出したことで有名です。

その他にも、ファッション雑誌「SENSE(センス)」、歌舞伎専門誌「演劇界」など、有名雑誌が続々と休刊へと追い込まれました。

Webメディアの台頭によって雑誌は駆逐されてしまうのでしょうか。雑誌のビジネス構造を解説しつつ、Web時代に生き残る雑誌の特徴を解説します。

20年で1兆円が吹き飛んだ雑誌業界

2022年に入って休刊を決定した雑誌は以下の通りです。

雑誌名最終号休刊登録日
ボーバー2022/8/82022/8/8
政経往来2022/6/12022/8/8
KID’S WEAR(キッズウェア)2022/2/282022/8/4
for Mrs. SPECIAL (フォアミセス スペシャル)2022/7/192022/7/28
コーチングクリニック<デジタル>2022/7/272022/7/27
コーチングクリニック2022/7/272022/7/27
まんがライフ2022/7/272022/7/27
MEN’S KNUCKLE(メンズナックル)2022/7/252022/7/25
ソフトボールマガジン2022/7/232022/7/24
近代柔道2022/7/222022/7/22
Yogini(ヨギーニ)<デジタル>2022/7/202022/7/20
Yogini(ヨギーニ)2022/7/202022/7/20
ボクシングマガジン2022/7/142022/7/16
アローライフ2022/4/262022/6/27
VIPSTYLE (ビップスタイル)2022/6/242022/6/26
テニスマガジン2022/6/212022/6/21
パーソナルトレーニング<デジタル>2022/4/202022/6/14
スワンマガジン2022/6/102022/6/13
SENSE(センス)<デジタル>2022/6/92022/6/10
SENSE(センス)2022/6/92022/6/10
かぞくのじかん2022/6/32022/6/5
BCCJ ACUMEN(ビーシーシージェイ アキュメン)<デジタル>2022/6/32022/6/4
BCCJ ACUMEN(ビーシーシージェイ アキュメン)2022/6/32022/6/4
idlers magazine(アイドラーズマガジン)<デジタル>2021/10/312022/6/3
コマーシャルモーター2022/6/12022/6/1
AIRPORTS OF THE WORLD(エアポーツ オブ ザ ワールド)2022/3/102022/6/1
アロン・ジ! Allons-Y!(Beginners)2022/5/152022/5/15
シュース SCHUSS(Intermediate)2022/5/152022/5/15
ダス・ラート DAS RAD(Beginners)2022/5/152022/5/15
クラブ CLUB(Upper Intermediate)2022/5/152022/5/15
カレント CURRENT(Advanced)2022/5/152022/5/15
ケ・タール QUE TAL(Beginners)2022/5/152022/5/15
ボンジュール Bonjour(Lower-Intermediate)2022/5/152022/5/15
クラウン CROWN(Elementary/Pre-intermediate)2022/5/152022/5/15
ティーム TEAM(Intermediate)2022/5/152022/5/15
クリック CLICK(Beginners/Elementary)2022/5/152022/5/15
アオーラ ahora(Lower-Intermediate)2022/5/152022/5/15
エル・ソル EL SOL(Upper-Intermediate)2022/5/152022/5/15
サ・ヴァ? Ca Va?(Intermediate)2022/5/152022/5/15
シェ・ヌ CHEZ NOUS(Advanced)2022/5/152022/5/15
つり丸<デジタル>2022/5/132022/5/14
つり丸2022/5/132022/5/14
珈琲時間<デジタル>2022/4/242022/5/13
ACT4(アクトフォー)<デジタル>2021/12/72022/5/13
ACT4(アクトフォー)2021/11/252022/5/13
MARTHA STEWART LIVING(マーサスチュアートリビング)2022/4/102022/5/11
横濱2022/4/52022/5/1
ゴルフレッスンプラス<デジタル>2022/4/282022/5/1
ゴルフレッスンプラス2022/4/282022/5/1
CURE(キュア)<デジタル>2022/4/212022/4/21
CURE(キュア)2022/4/212022/4/21
IN STYLE (US)2022/2/282022/4/14
本当にあったゆかいな話芸能ズキュン2022/4/142022/4/14
af・imp (オートファッションインプ)<デジタル>2022/4/82022/4/13
af・imp (オートファッションインプ)2022/4/82022/4/8
終活読本 ソナエ2022/4/52022/4/5
時の法令2022/3/302022/3/30
NHKウイークリーSTERA(ステラ)2022/3/302022/3/30
超エキサイト!2022/1/272022/3/28
上沼恵美子のおしゃべりクッキング2022/3/182022/3/26
PROCYCLING(プロサイクリング)2022/1/102022/3/22
上沼恵美子のおしゃべりクッキング<デジタル>2022/3/182022/3/18
NHKガッテン!<デジタル>2022/3/162022/3/16
NHKガッテン!2022/3/162022/3/16
LiVES(ライヴズ)2022/3/152022/3/15
CD NHKラジオ 高校生からはじめる「現代英語」2022/2/142022/3/10
KURA(クラ)2021/12/202022/3/9
演劇界2022/3/32022/3/7
衆知2022/2/272022/2/28
芸能エンタメDASH !!2022/2/262022/2/27
素敵なフラスタイル2022/2/262022/2/27
FinancialAdviser(ファイナンシャル・アドバイザー)<デジタル>2022/2/262022/2/27
FinancialAdviser(ファイナンシャル・アドバイザー)2022/2/262022/2/27
まんが4コマぱれっと2022/2/222022/2/22
NHKラジオ 高校生からはじめる「現代英語」<デジタル>2022/2/162022/2/16
NHKラジオ ラジオで!カムカムエヴリバディ<デジタル>2022/2/162022/2/16
公認心理師2022/1/112022/2/15
NHKラジオ 高校生からはじめる「現代英語」2022/2/142022/2/14
NHKラジオ ラジオで!カムカムエヴリバディ2022/2/142022/2/14
月刊プリンシパル2022/2/132022/2/13
小説 Wings2021/11/102022/2/10
RIDE HI(ライドハイ)<デジタル>2022/2/12022/2/10
RIDE HI(ライドハイ)2022/2/12022/2/10
月刊囲碁未来2022/2/52022/2/7
おかずのクッキング2022/1/212022/1/24
磯釣りスペシャル<デジタル>2022/1/212022/1/23
磯釣りスペシャル2022/1/212022/1/23
おかずのクッキング<デジタル>2022/1/212022/1/21
Fujisan.co.jp「休刊情報」より筆者作成

1か月当たり平均で12の雑誌が休刊していることになります。

雑誌の販売金額のピークは1997年。週刊誌、ムック、コミックス、月刊定期誌合計の販売額は1兆5,644億円でした。2021年は5,276億円。市場はおよそ1/3に縮小し、20年ほどで1兆円が吹き飛んだことになります。

※出版科学研究所「雑誌販売額」より

雑誌は典型的な斜陽産業になりました。ただし、すべての雑誌が縮小しているわけではありません。売上減が顕著なのが、週刊誌と月刊定期誌。週刊誌、月刊定期誌ともに1997年の水準から2割程度まで縮小しています。

※出版科学研究所「雑誌販売額」より筆者作成

その一方で堅調なのがコミックス。10%程度しか減少していません。

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週刊誌と月刊定期誌が力を失った理由は2つあると考えられます。1つは消費者の情報取得方法が雑誌からWebメディアへと移行したこと。もう1つは企業が雑誌に広告を出さなくなったことです。雑誌社の主な収入経路である2つの要素が破壊されました。

コミックスはコンテンツの特性上、代替物となるものが少なく、大幅な縮小を免れていると考えられます。裏を返すと、週刊誌・月間定期誌は別のものに置き換わったということです。

情報を取得する単価が劇的に下がった

株式会社博報堂DYメディアパートナーズは、消費者のメディア接触時間の定点調査を行っています。それによると、2006年の1日当たりの雑誌の接触時間は週平均で19.6分。2022年は11.2分まで縮小しました。その一方で、スマートフォンの接触時間は11.0分から146.9分まで広がっています。

※株式会社博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査」より

スマートフォンの接触時間は2022年に初めてテレビを上回りました。

雑誌からWebへの移行は、紙からデジタルへという物理的な変化を示すだけのものではありません。メディアのビジネスモデルそのものが大きく転換するものでした。

インターネット時代は、消費者の情報取得単価がゼロに近い水準まで下がりました。かつてブリタニカ国際大百科事典は数十万円で販売されていましたが、現代であれば(情報の正確性や粒度は異なるものの)無料のWikipediaで同様の情報を入手することができます。

専門誌でしか手に入れることができなかった、自動車やオートバイのマニアックな改造例は、InstagramやYouTubeで簡単に見つけることが可能です。週刊誌が得意としていた、社会問題、業界・企業動向、芸能ネタ、スポーツ情報なども、ほとんどがWebメディアでお金を払うことなく読めるようになりました。

課金しても読む価値があると消費者が判断する記事は、相当ハードルが高いものとなっています。週刊文春の本誌の発行部数は年々落ち込んでいますが、文春オンラインの月刊PV数は2021年8月に初めて6億を超え、過去最高となりました。

※文化通信「文藝春秋 「文春オンライン」が初の月間6億PV突破 サイト開設以来最高に」より

文春オンラインは月額2,200円のサブスクリプション型。「文春砲」と呼ばれる特ダネ、スクープを連発し、課金しても読む価値のある情報を発信しています。雑誌からオンラインへの移行に成功した稀有なパターンです。

雑誌社にもデジタル人材の獲得が必要に

数多くの雑誌は、消費者の情報取得単価が下がったことで運営を継続する体力を失いました。

また、雑誌が紙からWebへと拠点を移すに当たり、マネタイズポイントを確立するノウハウを持っていませんでした。これは雑誌社に勤める人の多くが文系だったことに起因すると考えられます。

Webメディアを運用する場合は、文春オンラインのようにできるだけけ多くのユーザーを集めなければなりません。メディアへの流入経路はGoogleなどの自然検索やSNS、Yahoo!ニュース・スマートニュースなどへの転載を通したものなど、多岐にわたっています。

メディアを成長させるためにはSEOやバズらせるコツなど、様々な知識が必要とされます。これらは分析ツールを通して数値を補足し、細かなPDCAサイクルを回さなければなりません。統計データを扱う数学の基礎知識も必要です。

こうした分析は、文系の人材に嫌悪感を抱かせることがほとんど。仮に誰かがリーダーシップをとって活動したとしても、周囲の理解が得られることは少ないのが現実です。文春オンラインも当初は苦戦したと言われています。

数千万から数億PVを稼ぐメディアに成長すれば、一部記事の有料化、またはサブスクリプション化によってマネタイズすることはほぼ可能です。しかし、多くの雑誌社はそこまで数字を伸ばす技術を持っていませんでした。

1社あたりの広告費は1億円を割り込む

多くの企業が雑誌からの広告を引き上げたことも衰退に拍車をかけました。

2005年の雑誌の広告費は4,842億円。インターネット広告の3,777億円を上回っていました。2006年に同水準に並ぶと、広告費は瞬く間にインターネットへと移行しました。

※電通「日本の広告費」より

リーマンショックの影響により、2009年の雑誌の広告費は前年から1,000億円以上も縮小しました。そこから更に減少が続き、2021年は1,224億円となりました。過去10年の減少ペースで進むと、2024年に1,000億円を下回る計算です。

やや古いデータになりますが、経済産業省が1,712の出版社に対して調査をした「新聞、出版業の概況(平成17年)」によると、出版業務を行う会社の雑誌販売収入は全体の29.9%、広告料収入は24.5%となっています。

※経済産業省の「新聞、出版業の概況(平成17年)

売上高は平成17年(2005年)当時のものなので、ここまでのデータを掛け合わせると、2021年の広告料収入は6,389億円から1,615億円程度まで縮小したことになります。雑誌販売収入も市場規模の変化を加味すると、7,776億円から3,149億円まで落ちた計算です。

仮に、経済産業省が調査した1,712社すべてが2021年まで残っていたとすると、2005年は1社あたりの広告収入が3億7,000万円、雑誌販売収入が4億5,000万円ありました。しかし、2021年は理論上、広告収入が9,000万円、雑誌販売収入が1億8,000万円まで下がったことになります。

電子書籍の分野でも取り残された雑誌

残念なことに、電子書籍においても雑誌は存在感を発揮できていません。2021年の電子雑誌市場規模は99億円。2017年の178億円を頂点として減少に転じています。

■電子雑誌市場規模

※HON.jp「2021年紙+電子出版市場は1兆6742億円で3年連続プラス成長」より

電子書籍の市場規模そのものは伸びていますが、けん引しているのはコミックスです。小説やビジネス書などの書籍も規模は大きくないものの、成長を続けています。唯一、雑誌だけが取り残されました。

情報発信を目的とする雑誌が生き残る道は、Webメディアへの移行しか残されていません。

Webメディアで成功する方法は大きく3つあると考えられます。1つ目は幅広い情報を発信してユーザーの興味関心を引く方法。2つ目はスクープで注目を集める方法。3つ目はターゲットの満足度を上げて中毒性の高いものにする方法です。幅広い情報発信で成功したのが東洋経済ONLINE。スクープ系が文春オンライン。ターゲットの満足度を上げているのがFACTAです。

東洋経済は2020年6月に月間3億PVを突破しました。経済情報を中心としながら、鉄道や教育、自動車など、情報に厚みをつけているのが特徴です。スクープを出すことよりも、安定的に質の高い記事を出すことに定評があります。自然検索、SNS、Yahoo!ニュースなど、様々な経路からユーザーを集めることにも成功しています。

文春オンラインの成功は前述のとおりです。

FACTAは2006年の創刊以来、息の長い活動を続けています。オンラインの記事を読むには、雑誌の年間定期購読契約が必要。FACTAは極めて取材力が高く、政治家や企業の不祥事を告発する記事を定期的に発信しています。投資家や金融関係者にファンが多いメディアです。

FACTAは文春のように日本中が大注目する情報を発信しているわけではありません。ただし、必要な情報を買うことに対して抵抗がない富裕層をターゲットとしており、その層に確実に刺さる情報を届けています。情報の質とターゲットの選別を上手く行っている例です。このパターンで成功すると、記事数を多くする必要がないというメリットがあります。その一方で、記事生産の属人性が高まるために事業を拡大しづらいというデメリットがあります。

雑誌社は、質の高い記者と編集者を抱えていることは間違いありません。人材が流出する前にいち早くWebへと移行することが求められて

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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