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組織変革でサブスクに舵を切る「ダイヤモンド」、雑誌社ならではの勝算とは?・・・特集「進化するサブスク」#3

Media Innovationの2021年3月特集は「進化するサブスク」。今やメディアにとって最重要のビジネスモデルに位置付けられつつ有るサブスクリプション。国内でもトライするパブリッシャーが増加し、今までのようにビジネスパーソンに訴求する以外のメディアも増えてきました。いまサブスクに起きている変化は、そして未来は、考えていきたいと思います。31日にはイベントも開催します!

株式会社ダイヤモンド社は100年以上の歴史を誇り、日本の経済・ビジネスの発展と共に歩んできた老舗出版社です。主力の雑誌「週刊ダイヤモンド」とオンラインメディア「ダイヤモンド・オンライン」はいずれも日本を代表するビジネスメディアとして多くのビジネスパーソンに愛好されています。

そんなダイヤモンド社が力を入れるのがデジタルのサブスクリプションです。「ダイヤモンド・オンライン」は約1億PVという規模があり、これまでは広告モデルで運営されてきましたが、2019年から有料の「ダイヤモンド・プレミアム」をスタート。さらに100年の伝統を持つ編集部を再編、雑誌とオンラインの体制を統合してサブスクリプションの獲得に邁進しているといいます。

その統合された編集部の編集長を務める山口圭介氏にお話を伺いました。

山口圭介
株式会社ダイヤモンド社
ダイヤモンド編集部 編集長
早稲田大学卒業後、産経新聞に入社し社会部、東北総局で記者を務める。2008年にダイヤモンド社に入社し「週刊ダイヤモンド」で総合商社や銀行などを担当する記者に。2012年に副編集長、2018年から「ダイヤモンド・オンライン」の副編集長も兼任。2019年に統合された編集部の編集長に就任する。

100年の歴史を持つ編集部を再編

―――伝統ある編集部を大再編したと聞きました。どんな背景があったのでしょうか?

「週刊ダイヤモンド」「ダイヤモンド・オンライン」の双方に悩みがありました。雑誌は市場規模が急速に縮小して、デジタル化が急務だったのですが、その知見はオンライン編集部にある。オンラインは成長していましたが、外部著者と連携してPVを追うというミッションがあり、週刊ダイヤモンドのデジタル化を本気で検討できる組織が社内のどこにもありませんでした。2つの編集部が向かう方向は同じであるべきだという気持ちがあり、2018年に両方の副編集長を兼任させてもらったのですが、異なる部、異なるミッションではこれ以上の改革は難しいと、経営サイドの後押しもあり、2019年に編集部を統合しました。

統合の最大の狙いは、ダイヤモンド・オンライン上での有料サブスクリプションです。広告モデルでも一定の成功を収めていましたが、PVがモノを言う世界で戦うには、芸能ネタなどではなく、ビジネスパーソンに刺さるコンテンツを追う経済メディアは不利だと思いますし、本質的に目指すべき方向性ではありません。サブスクリプションでは質の大転換が必要で、それを実現するには雑誌が100年培ってきたノウハウを共有する必要がありました。もちろん組織を統合するだけではダメで、コンテンツの入稿フローをはじめ、記事の書き方、特集の構成、パッケージングなど、あらゆることが変わるので、相当な覚悟が必要でしたが、なんとか形になり、結果も付いてきました。

―――編集部の統合はどのように行われたのでしょうか?

2つの編集部が1つになっただけでなく、中身も「記者チーム」「編集チーム」「デジタルチーム」という3つに再編しました。

「記者チーム」にはさまざまな企業を取材している業界担当の記者が所属しています。業界取材で拾ったネタを深掘りしてニュース記事や特集としてデジタルと雑誌の双方に届けていくスタイルです。

これまでは自動車、電機、銀行、証券、ゼネコン、不動産など、各記者はまさに個別の業界を担当していたのですが、再編にあたって括りを広くしました。

具体的には、インダストリー班、リテール班、ファイナンス班、インフラ班、グローバル班の5班と、テクノロジー担当、データ分析担当という2つの担当に分けて、各班の記者がテクノロジー担当やデータ分析担当と情報共有しながら、「ここでしか読めないコンテンツ」を日々生み出しています。テクノロジー担当がリテール班と一緒にリテールテックを追ったり、ファイナンス班とフィンテックを追ったりというイメージです。これは業界の垣根を超えたビジネス展開が当たり前になり、縦割りの業界担当では追えないニュースが増えているという背景があります。

「編集チーム」は特定の担当業界を持たずに、読者目線の「企画ドリブン」で特集を作り上げる編集者主体のチームです。例えば、相続をテーマにしたり、資産運用をテーマにしたり、読者の不安、不満、不便を解消する問題解決型の特集、要するにマーケットイン発想の特集を担っています。

「デジタルチーム」は当初、これまでの「ダイヤモンド・オンライン」編集部を引き継ぐ形で誕生しました。外部の著者さんと連携したフリーの単発コンテンツの制作を主に担当していましたが、最近は自ら執筆するオリジナルコンテンツの作成にも注力しているのに加えて、会員向けの新しい連載コンテンツを矢継ぎ早に立ち上げています。

―――編集部の統合によって雑誌の制作はどのように変化したのでしょうか?

完全にデジタルファーストに移行しました。今はオンラインに掲載した特集を追加取材したり、再編集したりして2週間後に雑誌に掲載するというフローで制作しています。過渡期は記者チームがオンラインで展開した特集を2週間後に雑誌に展開し、編集チームが雑誌で展開した特集をオンラインで展開するという変則的な体制だったので、かなり大変でした(笑)。今はオンラインから紙への一方向です。台割から何から製作工程を全て刷新してゼロから作り直したので苦労しましたが、今は軌道に乗って落ち着いてきました。

幸いな事に雑誌とオンラインでは読者層が異なります。それぞれの読者層にあわせる形で手直しをしています。オンラインは記事単位で特定の読者層に深く刺すスタイルが効果的ですが、雑誌はマスをターゲットにした方が反応がいいです。例えば、オンラインでは「アクティビスト襲来」という特集だったのを、雑誌ではより多くの人に届きやすいよう「最強投資家が狙う割安株」というタイトルに変えて、中身も銘柄リストを加えて色付けするというような事もやっています。

―――サブスクリプションに移行するに当たって、広告への懸念は無かったのでしょうか?

懸念はもちろんありました。これまで無料だったサイトに有料のサブスクリプションの記事が加わるわけです。PVは下がるだろうという懸念が社内であったのは事実です。でも結果はそうならず、むしろPVは増加し、サブスクリプション導入後に月間PVが過去最高を更新しました。

実は今、PVは主要KPIではなくなっているのですが、最初はPVを下げちゃダメだという意識があったのも確かです。

最も注力していくべきは会員向けコンテンツになるので、PVを稼ぐために多くの力を取られてしまっては、会員獲得もPVも中途半端になり、共倒れするリスクがありました。ですので、過去のデータを徹底的に分析して、広く世間に拡散されやすいのはどんなコンテンツかを突き詰めて、「仕組み化」する事によって、PVを維持することを意識しました。

サブスクリプションを事業の柱に

―――サブスクリプションを始めてみて何が起こりましたか?

あらゆることが変わりました。分からない事だらけだったので、他社の事例も含めてあらゆるものを研究しましたが、やっぱり体験してみて分かる事が圧倒的に多かったです。

記事の書き方や文体もサブスクリプションを意識することで、大きく変わりました。有料会員を獲得するためには、登録してでも読みたいと読者を引き込む必要があります。どう引き込んでいくか、というメソッドはある程度掴みつつあると思います。

―――PVを追わなくなったという話もありましたが、編集部が見るKPIも変化したのでしょうか?

2020年度下期から、PVを主要KPIから外しました。これまでの収益構造は、主に週刊誌の販売収入と広告収入、オンラインのPVを“換金”する形での広告収入という3つがありました。ここにオンラインでのサブスクリプションが加わりました。今回の意思決定は、PV型のマネタイズから会員ベースのマネタイズへのシフトを意味します。エンゲージメントの高いビジネスパーソンの読者、会員を重視して、PVはそうしたペルソナに合致した読者が増える事によって副次的に増加する指標だと考えています。編集サイドの今の主要なKPIはMAU(月間アクティブユーザー)などになります。これらは有料会員の基盤になるだけでなく、良質で高単価の広告の基盤にもなります。

編集部の統合と同時にサブスクリプション事業部という部署が設立され、そこには今、データのプロフェッショナルが集まっています。どんな記事が会員を獲得したかなどが時系列でデータ化され、それらのデータを基にどうしたらエンゲージメントの高い有料会員に評価されるか、サブスク事業部と編集部が連携して知見を蓄積しています。

ちなみに、これらのKPIに関連する数字は、編集部内の誰でも見られる場所に大きなモニターを置いて共有していますが、会員獲得数などについては部員の個別目標には落とし込んでいません。部員に細かい数値目標を課しすぎてしまうと、目標をクリアするための記事を作る事になってしまい、本来的に書くべき記事がないがしろにされ、結果的には読者の満足を損なうのでないかと危惧しているからです。

―――会員を獲得するためのマーケティングにはどのように取り組まれていますか?

派手な広告を打っているわけではなく、メルマガなどを通じてサイトを訪れてくれた読者が有料会員になってくれているので、チャーンレート(解約率)も想定よりは低く出ています。

サブスクリプションの有料会員の獲得には、やはりオリジナルの特集記事が強いです。日々の新規獲得数は着実に伸びているので、試行錯誤を繰り返しながら新規獲得に注力するフェーズなのかなと思っています。

一方で、一定の割合で解約はされていきます。有料会員の母数が増えれば、その分、解約の絶対数は増えていくため、同じ戦略を継続していくだけでは、いつかは1日の解約数が1日の獲得数を上回り、成長が頭打ちとなる日がきます。

そうなる前に、NewsPicksがやったように、新たな成長ドライバーを打ち出す必要はあるのかなと。途中で「企業・産業チーム」を立ち上げてオリジナルコンテンツを強化したり、会員向けサロンの「アカデミア」で会員を拡大したり、さらに動画、法人向けというように「非連続」的に成長ステージを切り替えていく必要はあるのだろうと思っています。われわれはまだテキストの特集コンテンツと動画コンテンツで順調に会員が伸びているので、しばらくはこのまま走り続けますが、色々と頭の体操はしています。

―――気になります。

デジタルサブスクリプションの「ダイヤモンド・プレミアム」では、ビジネスパーソンの「学びの場」になることをコンセプトに掲げています。テキスト記事だけでなく、動画やウェビナー、書籍のようにさまざまな切り口で、ユーザーの意思決定や実益に結びつく情報をサービスとして提供していくつもりです。

加えて、「ダイヤモンド・プレミアム」ではウォール・ストリート・ジャーナルの記事も全て読むことができます。そうした外部連携もしっかりと進めていきたいですね。

ビジネスパーソンへのタッチポイントを増やして、「最強の学びの場」を提供できればと思っています。

―――出版社としては例がないように思いますが、CTO(最高技術責任者)も置かれたそうですね

これも編集部の統合とほぼ同時期でした。CTO室を立ち上げ、これまで外注でしのいできたところを徐々に内製化して、瞬発力を持って変えていくことのできる方向に舵を切っています。サイト設計が外注で継ぎ接ぎになってしまっていた面もあり、何をするにも時間がかかっていました。何か一つ変えるだけでも膨大な時間がかかるので、これを改善したい、あれを導入したいと提案しても、どうしても諦める方向になってしまっていました。今は全然違う景色になりました。

さらに嬉しいのが、CTOもサブスクリプション事業部のデータサイエンティストもそうなのですが、根底にコンテンツへの愛があります。どんな優秀なエンジニアでもコンテンツへの理解が低いと編集サイドと衝突してしまうリスクがあると思いますが、根底で分かりあえているので、とてもいい関係が築けていますし、編集サイドと同じ会議に出て一緒に議論ができる。とても素晴らしい人が加わってくれたと思います。

―――最後に今後取り組んでいきたいと考えている事を教えてください

サブスクリプションは端緒についたばかりで、課題はまだまだあります。メディア企業、編集部に求められる能力は多様化しています。これまでのように質の高い記事を書く事はもちろん必須です。しかし、サブスクリプションはビジネスモデルであると同時に、読者への届け方でもあります。ですから、読者に寄り添ってコンテンツをどう届けるかがこれまで以上に重要になります。

この点において、レガシーメディアでは、出版社が新聞社より優位だと思っています。多くの出版社には、新聞社の販売局、つまりはコンテンツを作れば自動的に読者に届く強固な宅配システムはなく、コンテンツを読者が求めるようにパッケージングして届ける努力を100年以上に渡って続けてきた歴史があります。週刊誌は毎週書店で手に取ってもらうための努力を続けてきたわけです。

「君の原稿は色気がない、読ませようとする視点が決定的に欠けている」。自分の原稿には多少の自信があったのですが、週刊ダイヤモンドに転職してきたばかりの頃、デスクにそう指摘されてショックを受けました。確かに、デスクの直しが入った原稿は見違えるほど面白くなっていました。読者を引き込む冒頭エピソードの描き方、数字を盛り込んだ深い分析、業界の先を見通した大胆な仮説。5W1Hが並んでいるだけのニュース原稿とは、ひと味もふた味も違うものでした。

原稿の書き方だけではありません。週刊誌は「幕の内弁当」みたいな存在で、主菜もあれば、惣菜もあるし、デザートもあるといった具合に、硬軟織り交ぜたコンテンツのパッケージングで、あの手この手で読者を引き込みます。

ただ、雑誌の特集の場合は、取り仕切る担当デスクが上手く差配すれば何とかなったのですが、オンラインの特集では1記事1記事がステーキである必要があります。このように紙とデジタルではあらゆる点で「作法」が異なります。記事を書いて終わりではなく、読者のデータを分析して、読者の求めるコンテンツを、読者の求める形で届ける組織へと変革する。これを部員一人一人が意識しないとデジタルサブスクリプションの成功は無いと思います。

特集: 進化するサブスク(2021年3月)

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Manabu Tsuchimoto
Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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