【メディア企業徹底考察 #18】今期営業利益9.1%増に上方修正したテレビ東京、コロナ禍でも好調の理由は?

株式会社テレビ東京ホールディングスがコロナ禍で息を吹き返しました。2022年3月期の売上高を予想比1.9%増の1,417億円、営業利益を予想比9.1%増の60億円に引き上げました。7月12日に東京都と沖縄県で再び緊急事態宣言に入り、その影響は神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府にも飛び火。行楽シーズンのお盆休みは外出自粛で迎えられることとなります。そのような状況下で業績の上方修正をしたのです。

2020年は旅行やホテル、外食、公共交通機関などを中心とした企業が広告費の抑制に動きました。再度の緊急事態宣言で企業の広告費抑制は続くとの見方もありましたが、早くも広告費が昨年を大きく上回ってメディア事業に光が見え始めています。

コロナ前、コロナ禍における4月-6月の業績を比較してみます。2022年3月期の売上高は前期比10.8%増の345億8,800万円となり、コロナ前比で3.1%の落ち込みに留めました。収束の兆しが見えない渦中で驚異的な回復力を見せています。そして何より見逃せないのが、利益率の急改善です。コロナ前の1.4%から7.4%まで伸びました。

■2020年3月期、2021年3月期、2022年3月期の4-6月の業績比較(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

放送事業への依存度が高いテレビ東京は、コロナ禍で番組制作費の抑制やリモート化の推進による経費、残業代の削減などを推し進めて利益の出やすい組織体制を確立しました。そこに思わぬ増収が重なり、利益率が押し上げられる結果になったのです。世界を揺るがせた厄災が、組織を強くした一例と見ることができます。この記事は、テレビ東京と競合各社の業績を比較しながら、その強さに迫るものです。

コロナ禍で小回りをきかせたテレビ東京

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テレビ東京の通期の業績を見てみましょう。テレビ東京の売上高はキー局の中では小さく、トップを走るフジテレビの1/4程度に収まっています。しかし、規模が小さいことが幸いしてテレビ東京の2021年3月期売上高は前期比4.2%減に留めました。減少幅は最も小さくなっています。

■テレビ東京、フジテレビ、日本テレビ、TBS、テレビ朝日売上高推移(単位:百万円)

※各社決算短信をもとに筆者作成

売上高を追及してきたテレビ局は、放送事業の他に大規模なイベント事業を持ったり、日本テレビのフィットネス、TBSの雑貨店など、M&Aによる事業の多角化を進めていました。今回の新型コロナウイルス感染拡大では、非中核事業で収益性が悪化したケースが目立ちます。

その一方で、テレビ東京は番組やアニメーション制作などのメディア事業に特化しています。事業推進のかじ取りもしやすく、売上減に襲われる中でも、2021年3月期の営業利益は前期比2.0%増、営業利益率は0.3%上昇させることに成功しています。事業を得意領域に絞り、小回りを利かせて経費を削減。高利益体質経営を追求したことが、テレビ東京の強さだと言えます。

■テレビ東京、フジテレビ、日本テレビ、TBS、テレビ朝日営業利益推移(単位:百万円)

※決算短信をもとに筆者作成

テレビ局のコングロマリットが解体される日がくるか?

次に2022年3月期4-6月のメディア事業の業績を比較します。テレビ東京は売上高が19.5%の増加、営業利益は233.4%も改善しました。フジテレビを除き、各社メディア事業の売上高は20%程度回復しているのがわかります。新型コロナウイルスで抑制されていた広告費の出稿意欲が回復したのです。フジテレビが減収となっていますが、これは放送事業は増収となったものの、番組と密接に結びついているイベントが自粛に追い込まれたことが大きく影響したものです。

■各社メディア事業2021年3月期、2022年3月期4-6月の業績

※決算短信をもとに筆者作成

やはり、テレビ東京は他社と比較して営業利益の回復が目立ちます。同様にテレビ朝日も営業利益率の大幅改善に成功しています。2社に共通するのが、番組制作などにかかる費用削減の動きの速さです。テレビ東京は2021年3月期4-6月に営業費用を前期比23.9%削減しました。テレビ朝日も同時期に19.8%削減しています。

テレビの番組制作はコロナ対応を迫られたため、事態が深刻化するにつれて費用が嵩んでいるのが現状です。事実、テレビ東京は2022年3月期4-6月の営業費用が前期比15.4%増加しています。テレビ局は見通しの暗い状況下で、急速な売上減や肥大化する必要経費に対応しなければなりません。その中でも着実に利益を出さなければならないのです。その点、番組制作やアニメーションなどのコンテンツに特化しているテレビ東京は、事業に集中する体制ができており、長期的に強みを発揮し続けられる可能性が高いです。

新型コロナウイルスは事業の選択と集中を促したと言われています。テレビ局各社はコングロマリット化を推し進めてきました。目先はどの会社も、高い自己資本比率で急場を凌ぐことは可能だと考えられます。しかし、そのビジネスモデルが脆弱なものであることを突き付けられました。この先、テレビ局のノンコア事業の切り離しは加速し、テレビ東京のようにコンテンツビジネスに特化する時代がやってくるのかもしれ

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