人気VTuberグループ「にじさんじ」を擁するANYCOLOR株式会社が2022年4月28日に上場承認を受け、6月8日にグロース市場に上場する見込みとなりました。VTuberの運営会社が上場するのは今回が初めて。「ツイキャス」のモイ株式会社が4月27日に上場し、公募価格470円に対して初値は91.9%高い902円を付けました。新たなビジネスを展開する企業への市場の期待は高まっています。
ANYCOLORは事業モデルが近いYouTuberマネジメント会社のUUUM株式会社と比べ、収益性が高くなっています。この記事では、ANYCOLORの利益率が高い理由を解説します。
”声”を販売する特異なビジネスモデル
2021年4月期の売上高は前期比219.6%増の76億3,600万円、経常利益は前期比の34.5倍となる14億5,100万円となりました。2022年4月期は第3四半期までの業績を発表しており、それをもとに通期の業績を試算すると、売上高は前期比177.4%増の135億4,500万円、経常利益は前期比288.1%増の41億8,000万円となります。
経常利益率が2021年4月期で19.0%、2022年4月期は30.9%と極めて利益率の高い会社です。なお、UUUMの2021年5月期の経常利益率は3.5%でした。
■ANYCOLOR業績推移(単位:百万円)


今後の注目ポイントは、コロナ特需の影響が一巡した2023年4月期の業績。来期も力強く成長しているのであれば、長期的な成長期待の高い会社だと言えそうです。
ビジネスモデルは比較的単純で、収益柱は4つに分かれています。VTuberが「にじさんじ」に所属をし、①YouTubeなどのライブストリーミング、②企業からのプロモーション案件の請負、③ライブイベントの開催、④グッズの販売を行うというものです。



この会社がユニークなのは、YouTubeの広告やスパチャと呼ばれる投げ銭の売上構成比率が低いこと。全体の33%に留まっています。構成比率が最も高いのはグッズの販売で45%を占めています。
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イベントの比率が8%と低いですが、これは明らかにコロナ禍の影響を受けていると考えられます。まん延防止等重点措置が2022年3月21日にすべての都道府県で解除されました。自粛ムードも少しずつ緩和されており、今後の伸張に期待できる事業です。
ANYCOLORは「にじさんじ」のオフィシャルストア で、人気VTuberの季節限定の音声データなどを販売しています。各VTuberがオリジナルの台本を書きおろし、会話劇とフリートークを展開するというもの。価格は500円~2,000円です。これがコマース事業の看板商品になっています。
原価がかからないこのデジタルグッズが売れていることが、利益率を高めている一番のポイントです。そして、こうしたグッズを買い求める熱狂的なファンを多数抱えていることが、ANYCOLORの一番の強みでしょう。
分散型の事業展開で外注費を抑制
次にYouTuberマネジメントを行うUUUMの売上高構成比率を見てみましょう。

YouTubeの広告収入であるアドセンスが58%、企業とのタイアップ案件が27%を占めています。グッズの販売は11%しかありません。
この違いが収益性に大きく影響します。
■ANYCOLOR(2021年4月期)とUUUM(2021年5月期)の原価・販管費(単位:百万円)

2社で大きく異なるのが原価率。UUUMは73.5%で ANYCOLORは61.5%と、10ポイント以上引き離しています。ANYCOLORは原価率を低く抑えているため、営業利益率を19.0%も出せているのです。
ポイントとなるのは原価の内訳。UUUMは原価に占める外注費の割合が98.3%と高くなっています。一方、ANYCOLORは49.0%です。
■外注費の原価に占める割合(単位:百万円)

アドセンスやタイアップ案件の比率が高いUUUMはYouTuberへの支払いが多くなり、原価が利益を圧迫します。しかし、ANYCOLORは原価を抑えやすいデジタルグッズの比率が高いため、粗利率も高くなるのです。音声はダウンロードで届けられるために物流コストもかかりません。企業にとっては非常に効率的な商品です。UUUMではとても真似ができないサービスであり、 VTuberに特化したANYCOLOR独自の強みです。
今後の成長性は?
ANYCOLORの上場はベンチャーキャピタルの出口戦略としての性格が強いものです。売出株数110万株に対し、新規で発行する株式は5万株しかありません。上場によって調達する資金は人材の増強に充てるとしていますが、その効果は限定的でしょう。
VTuberは設備投資によって拡大するものではありません。人気VTuberを発掘して育てるという泥臭いビジネスです。スターをどれだけ生み出せるかがANYCOLORの成長を左右します。ユーザーローカルによると、VTuberの人数は2021年10月に16,000人を突破。人気が衰える兆しは今のところなく、人気VTuberを発掘する土壌は整っています。
今後の追い風となりそうなのがメタバースの広がり。ライブストリーミングやイベント、グッズの販売がシームレスでつながる可能性があります。ファン同士のコミュニケーションが活発になればスターとなるVTuberも生み出しやすくなります。
ANYCOLORはUUUMと同列に見られがちですが、ビジネスモデルが大きく異なり、高い収益性と成長性を秘めた会