【メディア企業徹底考察 #103】デジタル化の岐路に立つ広告代理店、電通・博報堂の行方は?

株式会社電通グループの2022年12月の収益は前期比14.6%増の1兆2,438億円でした。2023年12月期は同2.3%増の1兆2,725億円を見込んでいます。

株式会社博報堂DYホールディングスは2023年3月期の収益を前期比5.0%増の9,400億円と予想しています。2022年3月期は同25.3%の増収でした。

両社ともにコロナ禍によるショックからは立ち直り、成長に向けて歩み始めました。今後の成長をけん引するのはデジタル広告とみて間違いなく、M&Aによるダイナミックな業界再編が進むと予想されます。

電通の官公庁からの発注停止が博報堂に好影響

電通は2021年12月期の収益が1兆855億円でした。2023年12月期が予想通りに着地すると、収益は2021年12月期と比較して17.2%増加することになります。

決算短信より

2020年12月期は緊急事態宣言で行動制限が課されたことにより、アパレルや交通、自動車、食品などの幅広い業種で広告の出向が手控えられました。2021年12月期に入って交通などの一部業種を除いて回復します。

2022年12月期に入ると、業種ごとの売上高の違いが鮮明になりました。リモートワークや非対面の推進により、2021年は情報サービスの売上高が伸張しましたが、2022年に入って減収に転じています。

新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置が解除された後でも、交通・レジャーの回復は遅れています。

アパレルや流通、家庭用品、薬品、自動車は回復が顕著。日常を取り戻して企業が積極的に広告を出している様子がうかがえます。

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注目したいのは官公庁の減少が著しい点。2021年12月期の1,432億円の6割程度まで縮小しました。東京オリンピックの反動減でしょう。更に経済産業省と文部科学省、外務省はオリンピックを巡る入札談合事件により、電通に対して9カ月間の入札参加資格取り消し措置をとりました。

電通は2023年12月期も引き続き官公庁からの発注の縮小に悩まされると予想できます。

その穴を埋めているのが博報堂。2023年3月期第3四半期において官公庁の売上高は前年同期間比92.0%増の344億円となりました。

■博報堂 2023年3月期第3四半期 業種別売上高 前年同期間比増減額

博報堂も外食や金融が伸びているのは電通と同じ。外食業界はようやく活気を取り戻してきました。金融はNISAの見直しなどにより、証券会社各社がプロモーションに注力しているものと考えられます。

電通と違い、博報堂の交通・レジャーは減収となりました。行動制限が解除され、インバウンドが回復しつつあるとはいえ、完全回復には程遠い状況です。

M&Aでデジタル領域を強化した電通

博報堂は2023年12月期において収益を9,400億円と予想しており、1兆円の大台が見えてきました。総額表示の売上高においてはすでに1兆円を軽く超えていますが、収益認識に関する会計基準を適用し、売上高との差異が生じています。

なお、電通は国際会計基準のIFRSを採用しているため、収益は広告の総額ではなく、マージンのみをカウントする純額を採用しています。両社ともに総額である売上高でカウントした場合、電通がおよそ博報堂の4倍程度上回っています。

決算短信より

博報堂の4マスメディアの合計売上高は縮小しています。2023年3月期第3四半期は前年同期間比4.1%の減少で、3,198億円となりました。その中でも新聞の減少が鮮明。2桁減となりました。次いで雑誌、ラジオ、テレビと続きます。

■博報堂 メディア別売上高 2023年3月期第3四半期

決算説明資料より

博報堂はインターネット領域で売上高を伸ばしきることができません。2023年3月期第3四半期は前年同期間比11.4%増の2,919億円と大幅に伸びているように見えます。しかし、電通と比較すると大きく遅れをとっています。

電通は2022年12月期のインターネット領域の売上高が4,020億円となり、前年同期比31.7%もの増加でした。

電通はかつてデジタルに乗り遅れたと言われていました。しかし、M&Aでそれを克服したのです。

2022年1月株式会社セプテーニ・ホールディングスの株式を追加取得して子会社化しました。セプテーニはデジタルマーケティングや採用メディアなどを展開しています。2019年3月にTOBで20.99%の株式を取得。持分法適用関連会社化しました。連結子会社化によって、業績・事業の両面においてデジタルの強化を図りました。

2022年5月には15%の株式を保有していた株式会社ディグ・イントゥの残り85%を追加取得。完全子会社化しました。ディグ・イントゥは電通デジタルのインターネット広告領域における運用代行・支援を行っていた会社。子会社化することにより、広告の運用体制を強固なものとしました。

同じタイミングで、イグニション・ポイント株式会社と資本提携を行い、連結対象としました。イグニション・ポイントは、企業に対してデジタル化推進支援を中心としたコンサルティングサービスを提供しています。

電通は広告代理店という枠組みを超え、デジタルを軸として顧客が抱える課題を解決するソリューション型サービスへと変革を遂げようとしています。

博報堂もインターネット広告の株式会社アドウェイズとの資本業務提携の締結や、デジタルマーケティングのソウルドアウト株式会社へのTOBなど、M&Aによる積極的なデジタル領域の拡大を進めています。

しかし、インターネット広告市場の旺盛な拡大を鑑みると、更なる強化が必要でしょう。

大手広告代理店による、インターネット広告・デジタルマーケティング会社への出資や買収が加速するのは間違いあり

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