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法律や社会との関係から考える…「メディアのイノベーションを生む50の法則」(#12)

メディアでイノベーションを実現するためにはどうしたら良いのか? そもそも「イノベーション」とは何なのか、イノベーションを加速させる要素とは一体何なのか、50の法則からメディアのイノベーションを考えていく連載「メディアのイノベーションを生む50の法則」です。

【法則28】メディアと法制の行方――自由と規制のあり方をデザインする

Key Words
〇マスメディアの機能
〇放送法と電波法
〇民主化と規制緩和

メディアの「表現の自由」「公共の福祉」の側面

メディアはどのような法律や制度によって支えられ、同時に規制されているのでしょうか。

ひとつには、日本国憲法第21条に「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。2.検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と記されていて、これがいわゆる”表現の自由”の根拠となり、メディアやコンテンツの存在を支持していると考えられます。

一方、同第12条には「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」と記されていて、メディアやコンテンツは”公共の福祉”にかなうものでなければならないと考えられます。

アメリカの政治学者 Harold Dwight Lasswell は、1947年の論文等で、マスメディアの社会的な機能として、「環境の監視」、「構成諸部分の調整」、「遺産の世代的伝承」をあげましたが、現在のメディアでも、それぞれが報道やジャーナリズム、思いや考えの伝播による共有と世論形成、記録とその冗長性担保といった営みに結びつき、まさに公共の福祉に寄与していると言えるのではないでしょうか。

このように日本国憲法の下、メディアやコンテンツは自由であることが、大原則となりますので、メディアやコンテンツを直接的かつ包括的に制限する仕組みはありません。しかしながら、実際には、いくつかの法律や制度によって、その枠組みが規定されています。

メディアのビジネスモデルに影響を与える規制

伝統的なマスメディアのうち、印刷媒体である新聞と雑誌・書籍については、かつて「出版法」や「新聞紙法」によって、政府による統制、検閲が行われていましたが、いずれも1949年に廃止され、現在では「日刊新聞法」や、いわゆる「再販制度」が、それらメディアを特徴付ける枠組みとなっています。

一方、電波媒体であるテレビとラジオについては、周波数の稀少性と放送の社会的影響力の大きさを根拠として、いくつか法律や制度により規制を受けています。その代表的なものが「放送法」と「電波法」です。

放送法は、「放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的」(第1条)としていて、国内で放送、即ち「公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信の送信」(第2条の1)を行う場合、この法律によって規律されます。

放送法では、放送を「電波法の規定により放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てられるものとされた周波数の電波を使用する放送」を「基幹放送」(第2条の2)として、それ以外を「一般放送」(第2条の3)と分けて定義していて、基幹放送が「電波法」に規定されていることがわかります。

電波法は、「電波の公平且つ能率的な利用を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的」(第1条)としていて、放送を「公衆によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信(第99条の2を除き、以下「放送」という。)」(第5条の4)と無線通信の一種として規律しています。

これらの法律は、テレビ・ラジオを規律(規制)すると同時に、総務省による許認可の形を取った事実上の参入障壁となっており、これらを保護しているとも考えられます。よって、これらの法律の動静は、テレビ・ラジオのビジネスモデルに大きな影響を与えることになります。

規制緩和により生まれる新たなビジネス

たとえば放送法は、1950年の公布後、改正を重ねています。

2007年の改正では、認定放送持株会社制度が導入され、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるよう定める「マスメディア集中排除原則」が事実上緩和されました。これにより、純粋持株会社の元に複数の放送局が集うことが可能になりました。

また、2009年の改正では、携帯端末に向けた移動受信用地上基幹放送(マルチメディア放送)に関する制度整備に触れ、翌2010年には、その定義がなされました。これにより、「NOTTV」や「i-dio」が誕生しています。2010年の改正では、放送の定義そのものも変更する等、大幅に通信、放送の体系が見直され、放送局も番組制作を担うソフト事業と、放送波の送信を担うハード事業に、原則分離されました。これにより、茨城放送は一時期、認定基幹放送事業者(ソフト)と基幹放送局提供事業者(ハード)に分離が行われました。

2014年の改正では、マスメディア集中排除原則の緩和促進による地方放送局の経営支援を可能にし、2019年の改正では、NHKのテレビ番組を放送と同時にインターネットでも配信可能としました。

一例ではありますが、これらの出来事を振り返ると、法制度の行方が、メディアやコンテンツのあり方や経営、ビジネスに直結していることをご理解いただけたかと思います。すでにお気付きのように、規制と緩和は、既存ビジネスと新規ビジネスに、危機と機会を与えることになります。あらゆる規制を無くし、完全な自由競争に任せることは、経済的には脆弱な文化的な活動に回復不可能な傷を与えてしまうことも考えられますし、大原則としての表現の自由や多様性が担保されなければ、人間的活動は閉ざされてしまいます。実際、「1995年~2005年の日本の規制緩和は、全要素生産性の改善とは相関関係がなかった」(星・カシャップ 2011年)という研究結果もあります。規制緩和によって進んだ過当競争が新たな規制や再規制を招くことは、メディアやコンテンツの世界でも、往々にして見かけられます。二項対立ではなく、意思を持って、その有り様をデザインしていくことが、イノベーションへの近道になるのではないでしょうか。

【法則29】技術の発展が社会課題を解決する新しい世界「Society5.0」

Key Words
◯Society1.0~4.0
〇Society5.0で実現する社会
〇Society5.0社会のメディア

経済発展と社会的課題の解決を目指す新しい社会

日本が目指す未来の社会の姿として、「Society5.0」という概念が政府から提唱されました。

Society5.0とは、すべての人とモノがインターネットでつながることにより、オンライン上とオフライン上を融合させ、経済発展と社会的課題の解決を目指す社会のことです。これまでのSociety1.0~4.0の社会では不可能だったさまざまな知識や情報が共有され新たな価値を生み出すことで、発展と課題解決の両方を目指すというものです。

  • 「Society1.0」――狩猟社会。野生の動物を狩猟したり、植物を採取したりすることにより生活する社会のこと。農耕が始まる新石器時代までの原始的な社会。
  • 「Society2.0」――農耕社会。農地を耕して農業により生活する社会のこと。新石器時代から工業が始まる近代まで1000年以上続いた社会。
  • 「Society3.0」――工業社会。工業や機械の発達により、大量生産や画一生産が可能になった社会のこと。主に産業革命以降の社会のことを指す。
  • 「Society4.0」――情報社会。1990年代後半のインターネットの普及により、世界がネット上でつながった社会のこと。

Society4.0である情報社会の次に来る未来の社会のカタチとして、Society5.0はとても期待されています。

技術の発展が社会課題の解決に寄与する

Society5.0の社会では、IoTやAI、ロボットや自動走行車など、技術の発展が社会にイノベーションを起こし、少子高齢化や地方の過疎化など、さまざまな社会課題が解決されるとしています。

Society5.0で実現する社会として、次の4つのポイントを政府は提唱しています。

  • IoTですべての人とモノがつながり、新たな価値がうまれる社会
  • イノベーションにより、さまざまなニーズに対応できる社会
  • AI(人工知能)により、必要な情報が必要なときに提供される社会
  • ロボットや自動走行車などの技術で、人の可能性が広がる社会

Society5.0の社会で活躍するメディアの姿

ではSociety5.0の社会で、メディアはどのように活躍できるのでしょうか。それは、「Society5.0が解決する社会課題」と「Society5.0を支える革新的技術」を掛け合わせることによって生まれると私は考えます。

【Society5.0が解決する社会課題】

  • 高齢化に伴う社会コストの削減
  • 地域間の格差是正
  • 富の集中、不平等の是正
  • 人手不足

【Society5.0を支える革新的技術】

  • IoT(Internet of Things:モノのインターネット)
  • VR(Virtual Reality:仮想現実)
  • ビッグデータ
  • AI(人工知能)
  • リアルタイム翻訳
  • 自動要約

これらを掛け合わせると、例えば次のような新たなメディアのアイディアが生まれます。

  • 「高齢化に伴う社会コストの削減」×「IoT」――ユーザーの年齢や視力、聴力に合わせて、自動で本の文字の大きさを変えてくれたり、テレビの画面を大きくしてくれたり、音量を変えてくれたりするメディアデバイスの発売。
  • 「地域間の格差是正」×「AI」「ビッグデータ」――子供向け教材。ビッグデータにより子供一人一人のスタディログを貯め、AIにより最適な学習計画や学習内容を提示するシステム。地域間の学習の格差の是正を目指す。
  • 「富の集中、不平等の是正」×「VR」――VRで世界遺産を体験できる映像コンテンツや、美術館・オーケストラ演奏会を体験できるコンテンツの制作。富の不平等により世界旅行ができなかったり、質の高い文化を体験できない不平等の是正を目指す。
  • 「地域間の格差是正」×「リアルタイム翻訳」「自動要約」――どの場所にいても、世界中のニュースをリアルタイムで、日本語で伝えてくれるニュースコンテンツサイトの作成。さらに、その人にとって重要なニュースのみを、自動で要約してくれて届けてくれる。

夢のような世界にも感じますが、近い現実でもあるSociety5.0。政府も民間も力を合わせて実現に向けて取り組んでいるとあって、今後、加速的に進んでいきそうです。同じようにメディアの私たちも、最新の技術を使い、社会課題を解決していけたらと願っています。

【法則30】2050年の日本のメディアはグローバルとローカルで生き残る

Key Words
〇グローバル・ナショナル・ローカル
〇日本の将来推計人口と世界人口推計
〇コンパクトシティ

高齢化が進む日本と勢いの増すインドとアフリカ

インターネットの発展による超グローバリゼーション、AI、IoTなどの新技術の飛躍的進歩、先進国の超高齢化と世界人口の増加--世界は未だかつてないVUCAの時代に突入しています。世界は、日本は、そして私たちはどう変わっていくのでしょうか。2050年の世界をマクロ的視点で考え、そこからメディアが生き残り続けるヒントを探したいと思います。

まずは人口の変化を見ていきましょう。

日本の人口は、内閣府の「日本の将来推計人口」によると、2008年の1億2808万人をピークに減少を続け、2050年には1億192万人になると予想されています。65歳以上の高齢者の割合は、2020年は28.9%だったのが2050年には37.7%にまで増え、実に3人に1人が高齢者になります。

一方、世界の人口はというと、国連の「世界人口推計」によると、2020年の77億人以降も増加を続け、2050年には97億人を突破すると予測されています。人口増加はインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピアの順に多く、サハラより南のアフリカの人口は、2050年までに倍増する見込みです。インドとアフリカの勢力が拡大することは必至です。

そうなるとどういった変化が起きるでしょうか。日本国内の外国人の占める割合は、現在の2.3%から20%~40%に増加するとされており、日本の3人に1人が外国人となります。ブロックチェーン技術やキャッシュレス技術の進歩により貨幣は統一に向かい、さらに自動翻訳機器により言語の壁は限りなく低くなり、国の違いの影響は小さくなります。

グローバル化が進み、ナショナルの力は弱くなります。

グローバル展開とローカル展開が戦略の鍵

続いて、企業の変化を考えていきます。日本学術会議の「2030年、2050年の日本の未来像について」によると、企業はビッグデータの集積と分析によって期待値ビジネスを展開し、M&Aを繰り返し、世界はいくつかのグローバル企業の傘下に分かれて競合するようになるでしょう。よりグローバル化が進みます。

一方、インターネットの普及と発展によりどこでも働けるようになり、都市部に住む必要がなくなり、一極集中から地方への多極集中に変わっていきます。自動運転車やモビリティの発達のためインフラのコストも下がり、地方でも住みやすくなります。さらに日本は人口減少と高齢化により、コンパクトシティ化が進みます。ローカル化が進みます。

以上のことを考えると、グローバル化は進み、ナショナルの力は弱まり、ローカルの価値は上がります。私は、メディアでも同じことが起こると考えています。グローバルに展開しているディズニーやNetflixなどのメディアはM&Aを繰り返しより巨大になり、ナショナルを中心に事業を展開していたマスコミの力は弱まっていき、一方、ローカルに根ざしているメディアは、これからも生き延びていくと考えています。

グローバル展開とローカル展開、これが日本の企業、日本のメディアが2050年でも活躍しているポイントになるのではないでしょうか。

(以下、第13回に続く)

メディアのイノベーションを生む50の法則

第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2

第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2
第12回:その他の領域 part2

第13回:「左脳」×「普遍性」 part3(11/2ごろ公開)
第14回:「右脳」×「普遍性」 part3(11/9ごろ公開)
第15回:「左脳」×「時代性」 part3(11/16ごろ公開)
第16回:「右脳」×「時代性」 part3(11/23ごろ公開)
第17回:その他の領域 part3(11/30ごろ公開)

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出村大進http://networkingevent.sakura.ne.jp/wp/
株式会社小学館マーケティング局。 毎月開催するメディア・マスコミ業界中心の勉強会&交流会「一冊会」を主催。 早稲田大学大学院経営管理研究科卒業。石川県生まれ。

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