国内の有料チャンネル2台巨頭と呼べる株式会社WOWOWと株式会社スカパーJSATホールディングス。売上高はWOWOWが頭うち、スカパーは減少に歯止めがかかりません。
■WOWOW業績推移(単位:百万円)

■スカパー業績推移(単位:百万円)



売上高はスカパーがWOWOWをおよそ2倍上回っています。これは事業展開の違いによるものです。WOWOWは売上高の9割以上を放送事業に依存していますが、スカパーは人工衛星を活用した宇宙事業を展開しており、小型地球観測衛星群が高頻度で撮影した画像を農業や災害対策などに活かすため、政府系機関などに販売しています。スカパーの放送事業は売上高全体の6割程です。
放送事業への依存度が高いWOWOWは、順調に累計加入者数を伸ばしていましたが、2020年3月期に一転して減少へと転じました。2021年3月期も加入者数は更に減少しています。背景にはNetflixなどの有料動画配信サービスの台頭があります。今後、2社はどのような道を歩むのでしょうか。この記事は業績と事業内容の違いを解説しながら、その行く末を占う内容です。
製造業のWOWOW、商社のスカパー
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2社の放送事業の業績を見てみます。放送事業単体で見ても売上高はスカパーが上回っています。スカパーは2021年3月末の段階で加入者数が310万。WOWOWを30万件上回っています。一方、事業別の利益はWOWOWの方が上です。利益率でみると、WOWOWが2021年3月期で8.8%、スカパーが5.0%です。この利益率に両社のビジネスモデルの違いがよく表れています。
■WOWOW放送事業業績(単位:百万円)

■スカパー放送事業業績(単位:百万円)




両社は有料衛星チャンネル事業者の似た者同士に見えますが、展開しているサービスは全く異なります。WOWOWは、人気のある映画やスポーツの放送権を購入したり、自社で制作するドラマやアニメなどのコンテンツに強みがあります。一方、スカパーは番組制作会社が制作したものを有料で放送する会社。つまり、有料放送のとりまとめを行っています。いわば、WOWOWは製造業であり、スカパーは商社に近いものがあるというわけです。仲介役であるスカパーは、自前でコンテンツを用意するWOWOWと比べ利益率が低いのです。
番組数でみると圧倒的にスカパーが多くなっており、それが加入者数の多さに反映されていると言えます。
衛星事業を戦略の根幹に置くスカパー
登録者数の推移をみると、スカパーは2017年3月期からずっと下がり続けています。実はスカパーは2012年の380万件をピークとして、減少に転じました。自前のコンテンツを持たないため、市場動向に左右されてしまう傾向があります。野村総研は放送サービスの契約世帯数について、2020年からは一貫して下がり続けると予測しており、スカパーの放送事業は下降線を辿る可能性が極めて高いです。

その一方で、市場規模を拡大しているのが動画配信です。2025年までは一貫して伸びる予想となっており、2024年には2,600億円を超える見込みです。Netflix、Amazonプライムビデオなど、外資系企業が大量の広告費をかけてシェア獲得にしのぎを削るのは、市場が伸び続けていることがあります。

衛星放送の加入者数減少は何も日本に限ったことではありません。米国でも全く同じ状況に陥っています。DirecTV、DISH TVなどは、新型コロナウイルス感染拡大による巣ごもり需要が起こった中でも加入者数が減少しました。
衛星放送は受信可能なアンテナ設備が必要になるなど、導入に面倒な手間がかかります。Wi-Fiが生活インフラとして賃貸住宅などに当たり前に構築されている今、若者が新規で衛星放送を選択する理由は少ないと考えられます。

インターネットの動画配信が好調なのであれば、スカパーも同様の道を切り開けば良いと思うかもしれません。しかし、スカパーの成長戦略の根幹には、あくまでも衛星事業があり、それを軸として新規事業領域を拡大する姿を鮮明に打ち出しています。基幹事業から離れて動画配信事業に参入する後ろ盾がありません。

スカパーの競合となるケーブルテレビ大手のJ:COMは、固定電話やWi-Fiなどの通信事業を行っています。J:COMは2019年9月にNetflixと業務提携し、契約者がNetflixを視聴できるサービスを開始しました。このタッグが実現した背景には、J:COMが放送事業を軸としていることがあります。J:COMはコンテンツを家庭に届けることが重要であり、それを何にのせるのかはこだわらないということです。また、NetflixがWi-Fi導入の後押しにもなり、両社にとってメリットの大きい提携内容となっています。
スカパーは、縮小し続ける放送事業のテコ入れには動かないでしょう。衛星から吸い上げる地図や天気のデータを活用し、サービスとして形を変えることへの投資を加速するものと考えられます。
WOWOWは今まで以上にコンテンツ力を磨くことができるか
先ほど、導入が面倒な衛星放送をわざわざ入れる人は少ないという話をしました。それには例外が一つあります。どうしても見たい番組がある場合です。WOWOWは自社で番組を作れる特徴を活かし、加入者を増やしてきました。2006年から13期連続で加入数を増加させてきたのです。
WOWOWの底力を見せつけたのが、TBSと共同制作で大ヒットさせたドラマ「MOZU」です。6日間ものあいだ道路の通行規制をして一般道でのカーアクションを実現させるなど、ドラマの常識を覆す内容に世間が注目しました。「MOZU」はシーズン1を2014年春にTBS、シーズン2を2014年夏にWOWOWで放送するスタイルがとられました。
WOWOWの2014年9月の新規加入件数は153,273。「MOZU」効果で、42,448件だった8月の3倍以上の新規加入者を獲得したのです。WOWOWは「パンドラ」、「空飛ぶタイヤ」、「トッカイ」などドラマ制作に力を入れています。また、全米オープンテニスなどの根強い人気があるスポーツ放送でも加入者を獲得していました。
しかし、コンテンツ制作に力を入れているのはNetflixも同じです。同社は2016年オリジナル番組に5,600億円を投じました。それが2021年度には1兆8,700億円まで膨らむと言われているのです。Netflixなど動画配信企業のコンテンツとの間で力の差が生じ、視聴者が衛星放送に入ることへのインセンティブも失われたことにより、WOWOWの加入者が減少に転じたと考えられます。
さらにNetflixは日本でアニメーターの育成支援をすると発表しました。アニメーターは劣悪な環境で仕事をしていると言われてます。巨大資本が市場に参入したことで、優秀な人材がとられてしまう可能性があります。Netflixは人材育成にかかる月額15万円の生活費と60万円相当の授業料を負担するとしており、その本気度は確かなものです。
Netflixはドラマ「全裸監督」でその制作力を国内で見せつけました。インターネットがベースになっているために詳細な数字が抽出しやすく、ユーザーの嗜好や動向を把握しやすいとも言われています。数字を制作に活かし、より選好度の高い番組を作れます。
WOWOWはコンテンツの拡充を成長戦略に置いています。WOWOWは動画配信サービス「Paravi」を提供していますが、加入者数を伸ばすことはできていません。このことは、単にコンテンツの配信先をずらすだけでは視聴者の獲得ができないことを物語っています。WOWOWは巨大資本とコンテンツで真正面から勝負する時代へと突入し