雑誌の定期購読サービスを提供する株式会社富士山マガジンサービスの業績が堅調です。2022年12月期の売上高を前期比2.5%増の60億7,600万円と予想。予想通りに着地すると、9期連続の増収となります。
富士山マガジンサービスがメインで取り扱うコミック以外の雑誌は、紙・デジタルともに市場の縮小が激しい業界。2022年は音楽雑誌『GiGS』や歌舞伎専門誌『演劇界』、女性向けファッション雑誌『Seventeen』などが休刊しています。
なぜ、定期購読サービスは増収を続けられるのでしょうか。
成長を支える3つのポイントとは?

富士山マガジンサービスのビジネスモデルは、顧客(購読者)と出版社の仲介役を果たすというもの。個人や法人の顧客を抱え、出版社に注文を取り次いで購入代金の請求や回収を行っています。購買代金に手数料を載せた業務報酬が売上高です。出版社は定期購読で部数の安定化を図れるメリットがあります。
2009年10月からは丸請サービスを開始。経営リソースが足らない出版社に代わり、企画立案、制作、販売、配送、顧客管理までを支援するようにもなりました。
このビジネスモデル上、富士山マガジンサービスは基本的に在庫を持つ必要がありません。
富士山マガジンサービス(連結)の2021年12月末時点での社員数は87名。それに8名の臨時職員を加えて全事業を回しています。アルバイトを除く従業員1人当たりの売上高は6,800万円。ブライダルや釣り雑誌を提供する株式会社KG情報の1人当たりの売上高は1,000万円、ビジネス書などを出版する株式会社インプレスが2,300万円です。
富士山マガジンサービスは、雑誌や書籍の出版を手掛ける会社よりも遥かに効率的に稼いでいます。
営業利益率の平均は7.4%。利益も安定しています。

富士山マガジンサービスが何より特異なのは、雑誌の市場が縮小しているにも関わらず、売上高が伸びている点です。同社がメインで扱う月間定期誌の2021年の販売額は2,065億円。市場は20年ほどで1/4に縮小しました。

マンガや小説、ビジネス書は紙からデジタルへの移行が進み、紙の書籍の市場が縮小。電子書籍の市場は拡大しています。しかし、雑誌は電子書籍も縮小を続けています。2021年は99億円で、2017年の水準から半分近くまで減っています。
■雑誌の電子書籍市場規模

富士山マガジンサービスが売上高を伸ばしている理由は主に3つあると考えられます。
1.店頭での購読に比べて解約しづらいというサービス特性
2.稼げるサービスへの経営資源の集中
3.電通と立ち上げたジョイントベンチャーの成功
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雑誌のデジタル化をサポートする子会社の立ち上げが奏功
【店頭での購読に比べて解約しづらいというサービス特性】
富士山マガジンサービスが提供する定期購読サブスクリプションの平均継続率は70%。高い水準を保っています。その背景の一つにユーザー層が特定の領域に偏っておらず、幅広い会員を抱えていることがあります。取り扱う雑誌は健康、文芸、自動車、ビジネス、医療など様々。会員は個人がメインですが、法人も多く官公庁も含まれています。
流行に左右されず、何らかの変化で大量離反が起こりづらい顧客基盤を築きました。

富士山マガジンサービスによると、書店での雑誌の3連続購入者は毎月20%のペースで離脱するといいます。そこに20%のペースで新規の雑誌購入者が加わっており、年間購読継続率は10%にも届きません。
定期購読は最低契約期間を設けており、基本的に更新は自動で行われます。そのサービス特性によって購読者の引き留めに成功しているのです。
【稼げるサービスへの経営資源の集中】
富士山マガジンサービスは会員に雑誌を販売し、業務報酬を得るビジネスモデルです。同社の2021年12月期の取扱高は118億5,200万円。2018年12月期と比較して3割増加しています。取扱高は右肩上がりで増加しています。
ポイントは取扱高に占める売上高(主に業務報酬)の割合も増加していること。2021年12月期は50.0%。2018年12月期は37.9%でした。すなわち、富士山マガジンサービスは業務報酬となる手数料の高い領域に経営資源を集中しているのです。

【電通と立ち上げたジョイントベンチャーの成功】
2018年5月に株式会社電通と富士山マガジンサービスは、ジョイントベンチャーの株式会社magaportを立ち上げました。雑誌のPDFデータを電子媒体で扱えるHTML形式に変換するなど、雑誌の電子書籍化を支援するシステムを提供しています。
magaportは旺盛に成長しています。2021年12月期の売上高は19億700万円。2018年12月期と比較して3.4倍に伸びました。

富士山マガジンサービスはmagaportの株式を51.0%保有しています。連結子会社magaportの売上高は全体の3割超を占めるまでになりました。富士山マガジンサービスは雑誌の定期購読をサービスの主軸に置いていますが、出版社が抱える経営課題を巧みに見抜き、それを解決するサービスを展開。効率よく稼ぐ仕組みを構築しているのです。
出版社とクリエイターをマッチングするサービスを開始
ただし、順風満帆かというとそうでもありません。目下の課題は課金ユーザー数の減少。2020年12月をピークとして減少に転じました。

2021年12月は前年同月比1.9%の減少でしたが、2022年6月は半年で3.3%減っており、減少ペースが加速しています。課金ユーザー数は売上高の基盤になるものであり、成長力を失う最大の要因となるでしょう。
他にも不安要因があります。
富士山マガジンサービスは2020年12月末の段階で、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が30.7%の株式を保有する持分法適用関連会社でした。CCCグループの雑誌配送請負などの取引関係があります。

しかし、CCCは2021年に持株を段階的に譲渡。2021年末にはすべて売却しています。売却先にはCCCが出資する株式会社Catalyst・Data・Partnersなども含まれますが、富士山マガジンサービスの取締役神谷アントニオ氏や株式会社図書館流通センターなど、資本関係のない法人や個人がほとんど。資本関係は解消されました。
CCCとの取引が即座になくなるとは考えにくいものの、中期的に何らかの変化が生じる可能性があります。
負の要因が目立ち始めた中で立ち上げた新たなサービスが、出版社とクリエイターを繋ぐマッチングプラットフォーム。イラストレーターやフォトグラファー、ライターのマッチングプラットフォームはすでにいくつもありますが、雑誌社の高い要望に応えられるクリエイターを抱えるサービスは少ないのが現状。富士山マガジンサービスは雑誌の発行を丸ごとサポートしており、すでに質の高いクリエイターを多数抱えています。
富士山マガジンサービスの課金ユーザーが減少する中、出版社が抱える課題を解決するサービスの提供は妙手と言えるでしょう。
出版社は人手不足になりつつあり、効率的な業務遂行が必須の業界。それをサポートする仕組みを構築し、次なる成長エンジンにしようとして