映画、アニメ、漫画、音楽、ゲーム、バラエティ、ドラマ――。日本のコンテンツは、国内のみならず海外の多くの人々を魅了し、「COOL JAPAN!」と呼ばれ称賛され、コンテンツ産業の市場規模は年間12~13兆円にものぼります。
かつては「コンテンツ」と「メディア」は一体化しており、メディア特にマスメディアがコンテンツを作成し、そしてそれらを伝えてきました。しかしデジタル化により、海外のプラットフォーマーたちが新たなメディアとなり、世界中のコンテンツを配信し、日本のメディアは弱体化の一途をたどっているように見えます。
このままでは日本のメディアだけでなく、日本のコンテンツも弱体化していくのではないでしょうか。日本のコンテンツの弱体化を防ぐためには、日本のメディアのイノベーションが早急に必要で、日本のメディアの影響力を強化することこそが、コンテンツを強化することにつながると私は考えます。
日本のメディアにイノベーションを!
本連載ではメディアのイノベーションを生む50の法則を紹介し、日本のメディアとコンテンツの更なる発展に少しでも寄与できることを願っています。
目次
イノベーションが生まれにくいメディアの産業構造
Key Words
〇マス・ミドル・パーソナルメディア
〇メディアのマネタイズ
〇規制産業
メディア=コミュニケーション・ツール
私たちはメディアによって情報を得て、世の中のことを知ることができます。身近なことだけでなく、世界、宇宙、過去、未来、創造、目に見えないものなど、手に届かないようなあらゆることも、メディアから取得することができます。さらに私たちはメディアによって心を動かされ、喜怒哀楽し、そして意思を持って行動に移します。私たちのそばにはいつの時代も、どんな場所にでも、メディアがあります。
今やコンテンツ産業の市場規模は、年間12~13兆円にものぼります。コンテンツ業界の中でもっとも規模が大きいのが「動画」コンテンツで34.53%と全体の1/3以上、その中でも地上テレビ番組が全体の20%以上のシェアを誇っています。次いで「静止画・テキスト」コンテンツが26.03%と多く、その中でも新聞記事が15%弱の市場を持っています。コンテンツ業界の市場規模は、ここ7-8年間、伸び続けています。
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「メディア」とは、何なのでしょうか。メディアとは、情報を人に伝えるための媒体や手段のことです。不特定多数の人に届けることができるコミュニケーション・ツールが、メディアです。もちろん声や手紙もメディアですし、ボディ・ランゲージなどもメディアに含まれます。
近年のメディアは、次の3つに大きく分類できます。
- マスメディア ――大衆媒体。新聞・出版・テレビ・ラジオ・映画など。
- ミドルメディア――パーソナルメディアをまとめたもの。プラットフォームやまとめサイトなど。
- パーソナルメディア――SNS・ブログ・掲示板・口コミなど。
近年はデジタル化の影響で誰もがメディアとなれる時代になり、マスメディアの力が弱まり、パーソナルメディアの力が強まっています。
変わらないマスコミのビジネス・モデル
「マスコミ」とは、何なのでしょうか。マスコミとはマスメディアのことであり、新聞・出版・テレビ・ラジオ・映画などの大衆媒体のことです。不特定多数の大衆=マスに伝えることができる媒体がゆえに影響力も大きく、人々の意識や行動、社会に大きな影響を与えます。
しかし、日本のマスコミのマネタイズ方法は長年変わっておらず、イノベーションがまったく起きていない業界だと言うことができると思います。
- 新聞社――新聞を印刷し、全国の販売店を通じて新聞を読者に届け、読者から購読料を受け取る。
- 放送局――総務省から電波の免許をもらい、番組を作成し、広告主から広告費をもらう。
- 出版社――本を印刷し、取次店、書店を通じて本を読者に届け、読者から料金を受け取る。
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他にも、イベント事業やライツ、グッズ販売や不動産など、各社が収益を上げている方法はたくさんありますが、メインとなるビジネスモデルでは大きなイノベーションは起きていません。
マスコミの規制という大きな既得権益
マスコミは人々の行動や社会に大きな影響を与えるため、よく社会学やコミュニケーション学、情報学やメディア学など、学問と結び付けられて語られることが多くあります。現代の私たちの生活を語るうえで、欠かすことができなくなったマスコミ。
なぜ日本のマスコミはここまで大きく、影響力を持つことができたのでしょうか。それは、マスコミに関する多くの規制が影響していると考えられます。
- 放送局――電波法、放送法、認定放送持株会社など。総務省が放送の免許を与えているため、またすでにメディアコングロマリット化しているため、新規参入が難しい。
- 出版社――委託制度、再販制度など。出版社側が価格を決められ、取次や書店との売上比率も決められているため、出版社が利益を上げやすい。
- 新聞社――日刊新聞法、再販売価格維持制度など。立場を利用した「押し紙」「積み紙」問題も根強い。
日本のマスコミは、規制という大きな既得権益に守られているがゆえにイノベーションが起きず、マネタイズ方法も大きく変わらず現代まで来たと言うことができます。しかしインターネットが誕生し、時代が劇的に変化してきました。海外から、規制の枠にとらわれずに全く新しいビジネスモデルを持つ“黒船”企業が市場を占有しだしました。
デジタルの進化が引き起こすメディアの大改革
Key Words
〇世界と日本のメディアの歴史
〇広告費の推移
〇海外の巨大ITメディア
古くから続く世界と日本のマスコミの歴史
マスコミの歴史は古く、さらにメインとなるマネタイズ方法はまったく変わっていません。
- 新聞――世界初の日刊新聞は1650年にドイツで創刊された。ドイツのグーテンベルクによって活版印刷が発明され、数々の新聞が世界中で発刊されるようになった。日本では明治4年(1871年)に初の日刊紙『横浜毎日新聞』が発売され、1874年には『讀賣新聞』、1879年には『朝日新聞』が創刊される。
- 出版――出版も同様に、グーテンベルクの活版印刷術以降、発展を遂げる。世界初の活版印刷は聖書だったと言われている。また活版印刷ではないが、世界最初の小説本は、日本の「源氏物語」との説もある。
- 放送――ラジオ放送は、1920年にアメリカのKDKA局が初めて商業ラジオ放送をスタートさせ、テレビ放送は1935年にドイツで初めて放送が開始された。日本では、1925年に東京放送局がラジオを、1939年にNHKがテレビ放送をそれぞれスタートさせる。
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何十年、何百年と続いた各メディアのビジネスモデルですが、インターネットの登場により、業界は一変します。
広告費の推移から見る旧メディアの衰退
日本の広告費の推移を見てみると、インターネット広告は2010年には新聞広告を抜き、さらに2019年にテレビ広告費を抜き2兆1048億円となり、四マス媒体を抜いてトップとなりました。その差は今後、ますます広がっていくことが予想され、インターネット広告は2021年には広告市場の45%を占めると推測されています。
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そして私がもっとも危惧していることは、インターネット広告費のほとんどが海外の会社に流れていることです。
- 動画広告――YouTube(Google)など
- ディスプレイ広告――FacebookやInstagram、Google、Twitterなど
- 検索連動型広告――Googleなど
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四マス媒体の広告費は下がる一方ですし、日本のメディア産業は、インターネット広告にまだ活路を見いだせていません。このような状態が長く続けば、日本のメディアの力は弱まる一方ですし、良質のコンテンツを作り続けることが難しくなってしまいます。
日本のメディアを脅かす海外の巨大IT企業たち
さらに、広告モデル以外でも海外からたくさんの企業が、日本のメディアを脅かしています。
- 放送業界――Netflix、DAZN、Amazon Prime Video、ディズニー、Apple、YouTubeなど。
- 音楽業界――Spotify、Amazon Music、Google Play Music、YouTube Musicなど
- 出版業界――Amazon、Kindle、SNSなど
- 新聞業界――各ニュースサイト、SNSなど
もはや一刻の猶予もなく、日本のメディアはイノベーションを起こし、ビジネスモデルに変革を起こさなければならないと私は考えます。10年後、20年後と今後の新たな時代の流れを見据えて、中長期のメディアの新しい形を模索し、生き残っていく必要があるでしょう。
技術革新がもたらすメディアのイノベーション
Key Words
〇コンテンツの増加、プラットフォーマー
〇「1→マス」「マス→マス」「マス→1」
〇デバイス・ドリブンのコンテンツ作り
コンテンツの増加とプラットフォーマーの台頭
近年のデジタル化による技術革新により、メディアの環境が劇的に変化してきました。未来のイノベーションを生むためには、メディア状況の変遷を把握しながら、未来のメディアの形を分析・展望し、次の一手を打たなければいけないと私は考えます。
では今後、どういった環境の変化が進んでいくのでしょうか。まずはインターネットの普及により、メディアの情報量が爆発的に増え、コンテンツが世の中に大幅に増加しました。デジタル化によりコンテンツの作成も簡単になり、誰もがコンテンツメーカーとなれる時代になったのです。これは第五世代の移動通信システムである5Gなどにより、これからもどんどん加速的に増えていくことが予想されます。
そのようにこれからもコンテンツが増え続けていく未来になっていくと、マスコミの代わりになるものが、プラットフォーマーの存在です。プラットフォーマーとは、ユーザーに情報を届けるサービスの基盤(プラットフォーム)を提供している企業のことで、GAFAなどがとりわけ有名です。
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プラットフォーマーは多くのユーザーを抱えているがゆえに、多額の広告費が集まり、たくさんのコンテンツが集まり、膨大な量の趣味嗜好が詰まった個人データを獲得することができます。コンテンツがどんどん増えていくと、プラットフォーマーの影響力や規模はどんどん大きくなるため、旧メディアやコンテンツメーカー側は到底力が及ばなくなってしまいます。残念ながら日本は今のところ有力なプラットフォーマーになれずに、海外の企業にその座を譲るかたちになっています。
AI・ビッグデータによる「マス→1」の時代へ
メディアの環境の変化として、双方向になったことも非常に大きいと考えます。今までマスコミは、マスの人たちに向け一方通行で情報を発信してきました。「1→マス」のコミュニケーションで、画一的で受動的でした。これがインタラクティブの「マス→マス」に変化したことにより、ユーザーはインプットと同時にアウトプットもできるため、能動的になりました。コンテンツも爆発的に増え、情報の発信側と受信側という発想はなくなり、すべての人が情報の発信者となったのです。
では未来はどうなるのでしょうか。情報が今まで以上にあふれ出すと、より自分にあったものを、よりパーソナライズ化された情報を、ユーザー側は求めだします。そうなると「マス→1」の情報の流れが主流になり、その個人に合った情報を流してくれるAIの技術が発展したり、より情報を編集してくれるプラットフォーマーの力が強くなることが予想されます。
AIの技術、そしてプラットフォーマーとしてのビッグデータを持ったメディアが未来の覇権を握っていくことになるでしょう。
デバイス・ドリブンのコンテンツ制作へ
また、メディア端末の進歩により、メディア接触時間が増加していることも、大きな環境変化の一つです。スマホやPC、タブレットの登場と普及により、いつでもどこでも繋がれる環境が整いました。いつでもどこにいてもメディアと接触することがでる時代。もっとも見るメディアが、四マス媒体ではなく、スマホやPCに変わりました。
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そうなるとどのメディアも、スマホやPCに合ったコンテンツを作っていく必要があります。よく、テレビの番組をそのままスマホで流しているために文字などが見えづらい映像や、雑誌の記事をそのままWEB記事にしているため長すぎるものを散見しますが、それではユーザーに選ばれることはありません。
今後、どんどんと新しいメディアデバイスが生まれてきて、よりいつでもどこでも手軽に接触できる媒体が生まれてくるでしょう。その時に、その媒体に合わせてコンテンツを作っていける柔軟さが求められてきています。
(以下、第2回に続く)
メディアのイノベーションを生む50の法則
第1回:メディアの変遷と未来
第2回:イノベーション理論の歴史
第3回:「左脳」×「普遍性」
第4回:「右脳」×「普遍性」
第5回:「左脳」×「時代性」
第7回:その他の領域 part1
第8回:「左脳」×「普遍性」 part2
第9回:「右脳」×「普遍性」 part2
第10回:「左脳」×「時代性」 part2
第11回:「右脳」×「時代性」 part2(10/19ごろ公開)
第12回:その他の領域 part2(10/26ごろ公開)