この20年で、メディアは何を誤ち、何を得たのか「2050年のメディア」著者が語る【Media Growth Summit 2022】

Media Innovationでは、世界中のパブリッシャーを支援するPiano JAPAN株式会社との共催で、5月29日にメディアのグロースをテーマにしたオンラインイベント「Media Growth Summit 2022」を開催しました。その基調講演では、「2050年のメディア」を出版し多くのメディア関…

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この20年で、メディアは何を誤ち、何を得たのか「2050年のメディア」著者が語る【Media Growth Summit 2022】
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Media Innovationでは、世界中のパブリッシャーを支援するPiano JAPAN株式会社との共催で、5月29日にメディアのグロースをテーマにしたオンラインイベント「Media Growth Summit 2022」を開催しました。その基調講演では、「2050年のメディア」を出版し多くのメディア関係者の間で話題になったノンフィクション作家の下山進氏が、「繁栄するメディアの条件」について語りました。

メディアを取り巻く環境は日々変化を続けています。しかし、この20年間で最も大きかった変化について、下山氏はプラットフォームの誕生ではなかったかと述べました。

日本において支配的なプラットフォーマーであるヤフーの提供する「ヤフーニュース」では、ヤフーのドメイン内で多くの媒体の記事が無料で閲覧できます。これにより、ユーザーは各メディアの特徴を意識しなくなりメディアのブランド価値が限りなく希釈されてしまったこと、ユーザーの間に「ニュースはタダで見られるもの」という観念が成立してしまったことが、今日のメディアの苦境につながっていると下山氏は指摘しました。

では、この20年間でメディア企業、とくに新聞社は何を誤ったのでしょうか。下山氏いわく、以下の3つがあるといいます。

  • 紙中心の経営を変えなかったこと

新聞紙の戸別配達を中心としたビジネスモデルがあまりに成功したため、その体験から抜け出せなかった。

  • コンテンツをウェブにタダで出してしまったこと

朝日新聞社など、ネット黎明期からウェブ展開に積極的な社もありましたが、あまりに長い期間自社サイトに無料で紙面の内容を掲載してしまい、その後の有料化の足かせとなってしまった。

  • プラットフォーマーにコンテンツを出してしまったこと

ヤフーは、各パブリッシャーから記事提供を受ける際に、各社との個別契約とし秘密保持条項を設けることで、各パブリッシャーが互いに契約内容を知らない状態にでき、差別的なレートを定めていきます。そして、1PV当たりのパプリッシャーへの戻しは、もっとも高いレートの社でも低く、広告費の多くはプラットフォーマー側に渡ることになりました。

こうした状況の中で、唯一の例外となったのが日本経済新聞社です。日経新聞は、紙面掲載記事の3割までしか、無料のニュースサイト「NIKKEI NET」には出さないという社内ルールを制定しました。さらに、有料の「日経電子版」創刊時には、すでに50億円近い売上のあった「NIKKEI NET」を閉鎖するなど、タダでは記事を読ませないという姿勢を取りました。ま,たヤフーに記事は提供していません。その結果、日経はこの期間に紙で失った80万部の購読を電子版の伸びで補うことに成功し、新聞社で唯一持続可能な経営を実現していると下山氏は指摘しています。

朝日新聞社と日本経済新聞社の売上推移

しかし、日経新聞やニューヨーク・タイムズなどはリソースが潤沢な大企業だから、こうした転換が可能だったのではないか? という疑問を持ってしまいます。ただ、下山氏はローカルメディアであっても持続可能な経営への転換は可能であるとして、鳥取県西部のケーブルテレビ局に言及します。

鳥取県米子市に本社を置き同県西部を放送地域とする中海テレビ放送は、人口減少の続く同県で、1989年の開局以来毎年増収を続け、今では社員一人当たり一億円の売上を出しています。下山氏は、他のマスメディアが報じることの出来ないローカルな地域情報も工夫をもって伝えることで、地元にとって欠くことの出来ない情報源となり、月3800円といったサブスクをとる視聴者を増やせているといいます。

地元である鳥取2区を中心に取り上げる選挙特番

地域情報といっても、当局の発表資料をいち早く入手してスクープを出すような、いわゆる「ベタ張り」取材ではありません。例えば、放送地域にある中海の浄化運動を20年に渡り、市民とも協力して伝え続けたキャンペーン報道など、地域課題の解決に向けた継続的な企画で、地域の信頼を得ています。そのため、報道局の月残業時間は21時間と、持続可能な働き方も実現しています。

19年以上に渡る中海テレビ放送の中海浄化への取り組みを取り上げた番組

また、優れたエンジニアが経営に参画しているのも特徴です。卸売市場の社長として取引の電算化を実現した秦野一憲氏は、89年の開局とともに代表取締役に就任します。このとき、インターネットの時代を予見して双方向型のケーブルを敷設することで、後のインターネットプロパイダ事業への参入を容易にし、中海テレビ放送は第一の飛躍を遂げました。

第二の飛躍として2016年には、ケーブルテレビやネットで培った課金システムを活かし電力小売りにも参入します。この際、行政とも協働し地元の再エネを使うなど、地域経済の循環に貢献しました。技術革新と自らの強みを活かした多角化により、現在では放送外収入が53%を占めています。

中海テレビ放送のセグメント別売上(グラフは中海テレビ放送提供)

講演終盤で下山氏はサブスクメディアにおいては、「質が利益を連れてくる」という考え方が重要であると述べました。読者に継続して課金してもらえるよう、読者に寄り添って質の高い情報を提供する。そうしたサブスクへの取り組みは、メディア環境全体の向上に寄与するのではないかと感じた講演でした。

《Taketo Yoshida》

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Taketo Yoshida

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Media Innovation編集部 ジャーナリズムとニュースメディアのマネタイズに興味あり。

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