世の中が大きく動いた2020年。メディアの世界も変化のど真ん中にありました。MIでも約1500本の記事を公開し、様々なニュースをお届けしてきました。年の瀬ということで、今年の人気記事や、注目記事をご紹介しながら2020年を振り返っていきたいと思います。
目次
PVが多かった人気記事トップ10
何百万PVもあるメディアと違って、PVが多いといっても数千ではあるのですが、その中でも注目を集めたトップ10をご紹介します。
- 資生堂、2023年に広告媒体費の90%以上をデジタルにシフト…「今のスピードでは駄目だ」
- 緊急事態宣言解除後のイベント運営はどうなる? 東京都が指針
- 動画メディアのC Channel、異例のTOKYO PRO Market上場へ・・・直近時価総額は約240億円
- 自由な言論を守る? 新たなソーシャルプラットフォーム「Parler」はTwitterに替われるか?
- NewsPicks、佐々木紀彦氏が退任…新会社を設立して新しいチャレンジへ
- コロナで人の行動はどう変わった? グーグルが世界中の行動分析データを公開・・・日本も都道府県別に確認可能
- マイクロソフト、ヒートマップや行動データ再生などサイト改善のための無料ツールを一般公開
- Facebook広告単価が3月から激減、新型コロナウイルスで出稿手控えか
- Instagramがステマを禁止、英国で当局からの指導で…「#ad」を義務付け
- ニューヨーク・タイムズ、100万人が新規契約し、記録的な一年だったと発表
最も人気だったのは、資生堂が広告費の90%以上をデジタルに振り分けていくというニュース。今年はDX(デジタルトランスフォーメーション)が流行語のようになりましたが、マーケティングのデジタルシフトもその一つ。伝統的にマスマーケティングに注力してきた化粧品のトップがデジタルシフトを強力に推し進めていくという決意が多くの人の注目を集めたようです。
そしてはやり当然というか新型コロナウイルスに関連する記事が目立ちました。
新型コロナウイルスとメディアはどう戦ったか
新型コロナウイルスの感染拡大もメディアやニュースの価値を再認識させた出来事でした。その一方で、環境の変化はメディアのビジネスを根幹から変え、メディアの変化を促しました。
- 新型コロナウイルス、メディア各社が特設サイトを開設・・・SNSはフェイクニュースへの対策
- 日本でもニュース消費が急増、「ヤフーニュース」は1日2.4億PVを超える
- 新型コロナウイルスの影響でキー局のロケ・収録の中止が相次ぐ・・・各局の対応まとめ
- コロナ禍の影響で動画視聴が大幅に増加…有料動画配信サービス利用率は21.5%
巣ごもり需要によってメディア消費が拡大した一方で、広告を中心とするビジネスには大きな打撃が。特に欧米のパブリッシャーではレイオフの嵐が吹き荒れました。政府によるメディア支援策も議論され、PPP(米国の雇用助成金)を受け取るべきかという議論も出ました。ただし広告単価やデジタル広告の出稿については下半期からは回復の傾向にあるようです。
- メディアに吹き荒れるレイオフの嵐、新型コロナウイルスの影響で広告が激減
- Facebook広告単価が3月から激減、新型コロナウイルスで出稿手控えか
- 報道機関は政府からのお金を受け取るべきか【Media Innovation Newsletter】4/25号
- 決算発表から読むデジタル広告にコロナが与えた影響度合い【Media Innovation Newsletter】7/19号
- 2020年下期インターネット広告予算、3割以上が増加したと回答…CCIが調査
広告規制・プライバシー
欧州のGDPR、カリフォルニア州のCCPAなどオンラインでのプライバシー保護の流れは世界的な潮流になっています。広告においても、過度なターゲティングが問題視され、同意を得ない利用が厳しく制限されるようになってきています。特にユーザーを追跡する有力な手段だったクッキーや、アプリでのIDFA利用が制限される事で、広告は大きな岐路に立たされています。
- iOS14、IDFAの取得がオプトインに変更・・・広告のターゲティングに甚大な影響
- フェイスブック、広告ネットワークからIDFA利用を削除へ…開発者の収益は50%減の可能性もあると警告
- Google、8月から有害な広告ブロックを拡大、YouTubeのスキップ不可広告も
- 【12月24日更新】ポストCookie時代における広告の最新動向を学ぶための記事まとめ
ただし、筆者はパブリッシャーにとっては追い風な面もあるのではないかと考えます。ユーザーとの接点を持ち、同意を取得するにも最前線にいるからです。そんな記事も書きました。
大統領選挙と政治の季節
2020年は新型コロナウイルスと共に、前代未聞の大統領選挙があった年として記憶されるでしょう。選挙自体も異例の接戦でしたが、選挙をとりまく情報流通には混乱があり、批判があり、課題が多く見られました。
前回の大統領選挙で大きな影響力を持ったとされるソーシャルメディアは過度な情報流通に歯止めをかける施策を打ち出しました。ツイッターはリツイートの機能を制限したり、各社はQAnonと呼ばれる陰謀論を排除しました。トランプ大統領による不確かな投稿に対する警告も話題を呼びました。対してトランプ大統領はプラットフォームが「表現の自由」を妨げ、検閲を行っているとして、通信品位法というプラットフォーム企業の免責を広く認めた法律の改正を目指しました。各社は「表現の自由」と「適切な情報流通」の狭間で苦心したと言えるでしょう。
もとより明確だったメディアの左右対立や、分断もより明確になりました。左派で有力なニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストがペイウォールで収益化を目指す中で、無料の右派のニュースメディアが勢力を伸ばしているという話もありました。また、トランプ氏がFOXに変わる右派のメディアを作ろうとしているという話題もありました。
- ツイッター、アメリカ大統領選を前にポリシーとリツイート機能など一部変更を発表
- Twitter、Facebook、YouTubeが陰謀論「QAnon」を相次いで排除、その背景と課題【Media Innovation Newsletter】10/18号
- ツイッター、トランプ大統領の投稿にファクトチェックを付ける・・・大統領は激怒、左右の論戦に
- トランプ大統領、「表現の自由を守る」ための大統領令に署名
- FacebookとTwitter、バイデン氏の息子の疑惑を報じた「ニューヨークポスト」の記事を制限
- 激戦となった大統領選挙、メディアは党派対立を埋められず…ポストトランプ時代でどう変化?
- バイデン新大統領誕生!大混乱の選挙、メディアで起こったこと【Media Innovation Newsletter】11/8号
メディアの信頼性をどう取り戻すか
メディアの存在意義が示された一方で、その信頼性には疑問が付けられています。特にデジタルメディアの信頼性は低いようです。また、広告に対する信頼性も低いということです。朝日新聞のインタビューでは記者の生の声を届けていくことが信頼性を取り戻す一助になるのではないかという話もありました。
- 国内メディアを信頼している日本人の割合は37%…週刊誌やデジタルメディアは軒並み2割台
- 日本におけるメディア・広告に対する信頼度は世界最低水準…Syno Japanが調査
- 若者の8割超がネット上の情報を虚偽だと感じる…フェイクニュースに対する法整備「必要」56.6%…日本財団調査
- Twitter、Facebook、LINE、TikTokらで作る団体、SNSでの誹謗中傷の投稿防止へ緊急声明
巨大なプラットフォームをどうするか
GAFAと呼ばれる巨大なプラットフォームをどうするかも議論の一つにりました。
- Instagram、投稿者の収益化サポートに舵を切る・・・まずはライブと動画で
- Facebookでオンラインイベントを完結できるように、動画配信や課金機能を追加
- グーグルもバーチャルイベントのプラットフォームを開設…登録、課金、配信を一気通貫で
- グーグル、GDPRやCCPAに対応した同意管理プラットフォーム(CMP)をリリース
各社は引き続き強力なソリューションを打ち出してエコシステムを強化する一方で、強固なウォールドガーデンに対しては批判も強まっています。フェイスブックは広告のボイコット騒動が、アップルはアプリストアの値下げを求める行動が大きくなりました。
- コカ・コーラ、ユニリーバなどが相次いでFacebook広告をボイコット、その背景とは?【Media Innovation Newsletter】6/27号
- AppStoreの独占に大手ゲーム会社が反乱、アプリストアはどうなる?【Media Innovation Newsletter】8/15号
- 米国でデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の改革議論…プラットフォームからメディアへの補償に道を開く可能性
- バイデン新政権がテック業界にもたらすもの【Media Innovation Newsletter】11/15号
米国議会では強硬な解体議論も出てきました。1月からはバイデン氏と民主党がリーダーシップを取りますが、議会の過半数を取れるかはまだ不透明で、このあたりの政治的な要因もGAFAの行く末を占う上では重要なポイントになりそうです。
- 連邦取引委員会と48州がフェイスブックを提訴…インスタグラムやワッツアップの売却を求める
- 独禁法によるGAFAの解体は21世紀には意味のない議論…潜む深刻な誤解とは?
- 独占批判に対して雇用創出をアピールするアップル、身を低くして乗り切れるか【Media Innovation Newsletter】9/6号
- バイデン新政権がテック業界にもたらすもの【Media Innovation Newsletter】11/15号
新領域への期待が高まる
パブリッシャーにおいては広告の低迷に対して、新しいビジネスモデルを探す動きが強まりました。中でもコマースは世界的にチャレンジが続いています。また、サブスクリプションも新型コロナウイルスや大統領選挙で大きく伸びたと言われています。
コマース
- ヤフー、商品比較メディア「mybest」を子会社化…第2四半期はコマースが大幅に伸び増収増益
- インスタグラム、IGTVでも商品のタグ付けが可能に・・・あらゆる規模のビジネスのEコマース事業を促進
- コンテンツコマースを昨年比2倍に伸ばした「GQ」、初のオンラインショップ「GQ Shop」もオープン
- メディアでの購買体験はコマース戦略を加速させられるか? BuzzFeedがサイト内で直接商品購入ができる仕組みを導入
- ホリデーセールで加速するパブリッシャーのコマース戦略【Media Innovation Newsletter】12/6号
サブスクリプション
- 「ウォール・ストリート・ジャーナル」のサブスクが200万人を突破、NYTより順調と主張
- 「ニューヨーク・タイムズ」サブスクリプションが700万会員を突破…コロナ以降も堅調に伸びる
- 米トリビューン、新型コロナウイルスでサブスクリプションが前年比3割増・・・ただし広告は急減
音声
- ポッドキャストのニュースはコロナウイルスの影でどのように成長したか・・・6つの類型と成否
- Amazon Music、ポッドキャストを提供開始…米国・英国・ドイツ・日本の顧客向けに
- NYタイムズ、ポッドキャストの有力企業を買収…新たな提携も、積極的な投資続く
- ポッドキャスト、遂に米国で1億人が毎月聴くメディアに・・・エジソンリサーチ「The Infinite Dial 2020」より
- Spotifyの有料会員数は1億2400万人に、ポッドキャストが成長を牽引
ニュースレターなど
- 日本でもニュースレターは普及するか? 配信者の徹底サポートで市場作りを目指す「theLetter」の挑戦
- 再注目されるテキストメッセージ(SMS)、サブスクに活用するメディアも…高いエンゲージメントが特徴
メディアの再編機運高まる
メディアの体力低下は、世界的な金余りも相まって再編機運を高めています。今年もメディアの買収や売却のニュースが耳目を集めました。デジタルボーンのパブリッシャーであるバズフィードが同業のハフポストを買収するというニュースも話題となりました。年末にはSPACと呼ばれる買収目的の上場企業を活用したスキームも出てきました。
- ダイヤモンド社、「地球の歩き方」事業を学研子会社に譲渡
- 学研プラスが「GetNavi」「CAPA」「ムー」「TVライフ」など雑誌事業を会社分割し日本創発と合弁化
- ユナイテッド、アラン・プロダクツの解散を決定…事業ポートフォリオの整理と注力事業を発表
- 「まんが王国」のビーグリー、ぶんか社グループを53億円で買収
- ユーザベース、米Quartz事業から撤退…経営陣がMBO、代表取締役の梅田氏は辞任
- バズフィードのハフポスト買収、その背景と狙いは?【Media Innovation Newsletter】11/22号
- PwCが今後のポッドキャスト市場を予測、M&Aも相次ぐ
- 急増するSPACを活用した上場、メディア企業の再編を促すか【Media Innovation Newsletter】12/20号
メディアのチャンスは大きい!
様々な課題がありながら、メディアでのチャンスはまだまだ大きいと思っています。雑誌や新聞社もデジタルシフトに成功し、大きな成果を得る企業が出てきています。
- 雑誌不況の中で急成長のハルメクHD、女性誌「ハルメク」は実売30万部を突破
- 雑誌社が運営するウェブメディアの最新指標が公開、3.2億PVの「文春オンライン」など7媒体が1億PV超え…ABC協会
- 日経はなぜ「デジタルファースト」に成功したのか、働き方の転換とチーム戦への移行
- 出版社が技術を手に入れた先にあるもの、講談社が設立したKODANSHAtech長尾氏に聞く
- これからの編集部のDXとは? 「ハフポスト日本版」CEOの崎川氏が取り組みを紹介
今年の特集
- 1月 AIでメディアはどう変わるか
- 2月 デジタル世界を変える、ノーコードの新潮流
- 3月 コロナウイルス以降、メディアはどうなる?
- 4月 コロナウイルス感染拡大、メディアやプラットフォームが果たすべき使命は?
- 5月 なし
- 6月 メディアのサブスクリプション戦略2020
- 7月 メディアと広告のこれから
- 8月 独立系メディアの新潮流
- 9月 なし
- 10月 メディアのビジネスモデルとしてのコマース戦略
- 11月 バーチャルイベントの内幕
- 12月 メディア業界2021年の展望
連載・その他
まとめ
それでは!2021年も頑張っていきましょう。